「L'insulte」2017 フランス/キプロス/ベルギー/レバノン/USA

レバノンの首都ベイルート。パレスチナ難民のヤーセルはイスラム教徒で、住宅の補修作業の現場監督をしている。ある日、アパートの住人でキリスト教徒のトニーとの間でトラブルが起きる。やがてヤーセルは上司に伴われ謝罪に行くが、トニーが放った一言に感情を抑えることができず思わず手を上げてしまう…
”パレスチナ人なんて皆シャロンに抹殺されればよかったんだ!”と、言ってはならない一言を発してしまったトニー。侮辱を受けたヤーセルはトニーにパンチを食らわす。
シャロンはイスラエルの元首相で、パレスチナ首脳部との和平交渉には決して応じないという信条の持ち主だった。そう、シャロンの名前でヤーセルは怒りを爆発してしまったのだ。
一方でトニーにもレバノンで起こった内戦で、命からがら故郷からベイルートへ逃げてきた過去があった。
ドラマの中で衝突するのはアラブとパレスチナの対立ではなく、ユダヤ教徒とキリス教徒の対立。かつてベイルートは中東のパリと呼ばれフランスの影響力が大きく、中東の国にありながら国民の中にはキリスト教徒が多い。
そしてパレスチナ難民であるヤーセルの妻マナールがノルウェーに移民したい!と言っていたのが印象的だった。
トニーとヤーセル、それぞれの弁護士が親子って設定が面白かったし、”親子ゲンカはやめて!”と裁判長に注意されていたシーンには笑ってしまった。
レバノン、ベイルート舞台の映画は「キャラメル」以来。トニー役のアデル・カラムはコメディアンとしてたくさんのTVドラマや映画に出演している様子。「キャラメル」での彼は、コメディっぽい役だったように記憶している。
トニーとヤーセルは互いに憎しみを覚えたわけではない。ただ謝罪すればよかったのだ…この辺り男たちの頑固さをひしひしと感じる。
大統領官邸前でエンジンがかからなくなったヤーセルの車に駆け寄り無言で修理するエンジニアのトニー。そして何事もなかったかのように走り去る2台の車。あのシーンとても素敵だった。そして大ラス…裁判所前、少し離れた所から互いを見つめ軽く頷きあう二人。感動の素晴らしい!ラストだった。
憎しみに燃えるのではなく、時にユーモアも交えて(裁判のシーン)描かれたヒューマン・ドラマは素晴らしかった。とても見ごたえがありMY BEST決まり!の一作。
トニー・ハンナに「キャラメル/2007」のアデル・カラム。
ヤーセル・サラーメにカメル・エル・バシャ。
シリーン・ハンナにリタ・ハイエク。
マナール・サラーメにクリスティーヌ・シューイリ。
ワジュディー・ワハビーにカミーユ・サラメ。
ナディーン・ワハビーにジャマン・アブー・アブード。
監督、脚本はジアド・ドゥエイリ。
TOHOシネマズシャンテにて