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「光のほうへ」

「Submarino」2010 デンマーク/スウェーデン
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ニックにヤコブ・セーダーグレン。
ニックの弟にペーター・プラウボー。
ソフィーにパトリシア・シューマン。
イヴァンにモーテン・ローセ。
監督、脚本は「セレブレーション/1998」のトマス・ヴィンターベア。
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兄弟に父親はいない。二人の母親はアル中で、育児はせず、幼い赤ん坊の弟は兄弟が育てている。酔っぱらって帰って来た母親…息子たちに”家に酒はあるか?”と尋ね、“ない!”と答えるニックに怒りをぶつけ、彼の頬を打つ。やがて疲れ果てた彼女はキッチンで眠り始める。床に粗相をした母親を非難しながら、床を拭くニック。そしてある日、赤ん坊が突然死する。兄弟は赤ん坊の死に責任を感じ、心に大きな傷を抱えたまま大人になる。
兄ニックは刑務所帰りでシェルターと呼ばれる臨時宿泊施設で酒びたりの生活を送っている。別れた恋人アナを想いながら、同じ施設のソフィーに慰みを求め、ただ身体を鍛える日々。一方弟は交通事故で妻を亡くして以来、一人息子を育てている。この父親は最愛の息子が生きる支えでありながらドラッグとは縁が切れず、自立も出来ない。やがて二人は母親の葬儀で再会する。

ニックという男はなんと心優しい人間なのだろう。少年時代は幼い弟を慈しみ、大人になった今では、殺人を犯したアナの兄イヴァンをかばったため、逆に彼が逮捕されてしまう。
雪の舞う刑務所の庭でばったり出くわす兄弟。二人とも塀の中だ。あの時兄弟が交わすまなざしにとてつもなく深い愛情が感じられた。ニックと弟はもっと早くに再会し、互いに助け合うべきだった絶対に…。

兄弟はシングル・マザーの母親から全くといってよいほど愛情をもらえなかった。しかしニックは元恋人アナが妊娠したにも関わらず中絶したことをいつまでも後悔しているし、弟の方は一人息子が生き甲斐なくらい深い愛情を抱いている。
二人が再会した時、ニックが弟の息子マーティンのことを気にかけ“この子が気がかりだ。”と、とても心配そうに言う。弟が“兄さんは子煩悩だから…”と言う台詞もあったが、母親から全く愛情をもらわないで育った彼らがとても愛情深い大人に成長していることに驚かされた。

少年時代のニックと弟はとても不幸せだった。彼らの母親が亡くなり再会した二人、その時もとても不幸せだった。やがて二人はどん底に落ちて行くかのごとく不幸せ極まりない状況に陥り始める。しかし、ラスト…タイトルにある“光のほうへ”向かう兆しが見えてほっとした。

とっても、とっても暗い映画ながら感動してしまった。ラスト、教会のシーンにはジーンときて泣けそうだった。
貧困/酒/ドラッグ…ヨーロッパってドラッグ中毒者が多い(アメリカもだが)。以前スイス、レマン湖のほとり、観光客が知らない所にヘロイン中毒者が集まり、そこは注射針のゴミで山になっていた映像を見て驚いたのを思い出す。
コペンハーゲンの美しい街でも、売人であるニックの弟が駅周辺でドラッグを売るシーンは印象深い。

ニックを演じるヤコブ・セーダーグレンの優しまなざしはベン・アフレックに似ているな。久方ぶりに間違いなくマイベストに入れたい映画。

シネスイッチ銀座にて
by margot2005 | 2011-06-18 00:00 | 北欧 | Comments(0)